きろにつく

  • 2020.03.01 Sunday
  • 23:35


いちばん悲しかったのは、なによりも、自分が暮らしていた街の道がわからなくなっていることだった。懐かしいだとか、そんな感覚ではなく、こんな道だったっけ、というような戸惑いが生まれてしまうことに戸惑った。なら、東京に戻れば、帰ってきた感覚が生じるのだろうかと考えたら、それもしっくりこない気がした。










バスに間に合うように家を出る直前、バイト先のグループラインの通知が来た。社員からの連絡で、個室にいつも置いているトイレットペーパーのストックを少なくするように、というものだった。どうやら盗まれるらしい。そこまでする人があの地域に住んでいるとは全く信じられなかった。信じたくなかった。そう思うと同時に、東京の自宅のトイレットペーパーが確か1ロールしかなかったことを思い出す。念のため、と思い実家から2ロールほど拝借することにした。そういえば二日前飲んだ友達が、近所にはどこも売っていないと漏らしていた。大阪も東京も同じ状況なのだろうか。


実家を出て駅へと向かう途中、トイレットペーパーを2セットと、ティッシュを1セットぶらさげている親子とすれ違った。思わず振り返って、姿を視線で追う自分が、彼らを睨み付けていることに気付くが、もしかしたらほんとうに必要なのかもしれないと思い直す。こういう事態になって、唯一わかることは、すべては間違っていて且つ正しいということだけだった。


大阪につき、バス乗り場へ向かう道すがら、集合時間に遅れそうでGoogleマップを開きながら焦る気持ちが抑えられない。ようやく地上へと出て、方向が全くわからなくなった。何度も利用している乗り場なのに、と自分に苛立つ気持ちがむくむくとわく。アプリに従う方向へ行っているのに、最終的には違う道に居る、ということを5分くらい繰り返してから、ずっとこっちな気がする、と思っている方へいくと、バス乗り場が見えてきた。なんだかんだと道を忘れていないことにほっとする。変に頭で考えるよりも心で感じるままに行動する方がいいときもある。


手続きを済ませると、同い年か下ぐらいの若いカップルが息を切らしてやってきた。がらがらとスーツケースをひき、マスクはしていなかった。普段通りの日常を送っているのだろうと思うと、昨日友達からいつものように恋愛相談の連絡があったことを思い出して思わず微笑んだ。



はぐれちゃった希望かき集めて

夜明けまでじっとしていよう

明日になったら嵐が過ぎていますように

何か変わりますように



自分の声をぼうっとイヤホン越しに聞きながら、いまはただ耐えようと思った。人それぞれいろんな生き方が、守り方がある。わたしは何を選択するのだろうとぼんやりこの数日考えていた。何もわからないが、ただ周りの人たちとのあたたかい日々を反芻していた。東京に戻ったらやることはたくさんある。とりあえず、歌おう、とだけ漠然と思った。

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